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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)4125号 判決

原告 甲野花子

〈ほか二名〉

右原告三名訴訟代理人弁護士 谷正男

被告 亡乙山太郎遺言執行者 萩原四郎

〈ほか一名〉

被告 合名会社 ○○

右代表者代表社員 乙山春子

右被告合名会社○○訴訟代理人弁護士 萩原四郎

右被告両名訴訟代理人弁護士 飯原一乗

同 秋山年紹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告亡乙山太郎遺言執行者萩原四郎は、原告らに対し別紙第一物件目録記載の土地及び家屋につき、昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ一、〇六七、二八八、四三一分の三一二、六七八、二七一宛とする所有権移転登記手続をせよ。

2 被告合名会社○○は、原告らに対し別紙第二物件目録記載の土地につき、昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ一、〇六七、二八八、四三一分の三一二、六七八、二七一宛とする所有権移転登記手続をなし、且つ原告らに対しそれぞれ昭和五〇年六月七日以降原告らに対する右持分移転登記完了まで右土地につき一平方メートル当り月額金二六円三六銭の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 仮執行の宣言。

(予備的請求)

1 被告亡乙山太郎遺言執行者萩原四郎は、原告らに対し別紙第一物件目録記載の土地及び家屋につき昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ三分の一宛とする所有権移転登記手続をせよ。

2 被告合名会社○○は、原告らに対し別紙第二物件目録記載の土地につき昭和四九年六月一七日相続を原因として、原告らの共有持分をそれぞれ三分の一宛とする所有権移転登記手続をなし、且つ原告らに対しそれぞれ昭和五〇年六月七日以降右土地の引渡完了まで一平方メートル当り月額金三〇円の割合の金員を支払え。

3 被告合名会社○○は、原告らに対しそれぞれ金一六、〇九〇、一三〇円及びこれに対する昭和五三年一一月一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(主位的請求及び予備的請求)

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

(主位的請求)

1 訴外亡乙山太郎(以下「太郎」という。)は、別紙第一、二物件目録及び別紙財産目録記載の各不動産を所有していたものであるが、昭和四九年六月一七日死亡した。太郎の共同相続人は、長女である原告甲野花子(以下「原告甲野」という。)、三女である月山海子、五女である丙川冬子(以下「原告丙川」という。)、六女である原告海川夏子(以下「原告海川」という。)、長男である亡乙山一郎(以下「一郎」という。)の代襲相続人である訴外乙山次郎(以下「次郎」という。)、同訴外乙山秋子(以下「秋子」という。)、同乙山四郎(以下「四郎」という。)の七名である。したがって、原告らは、亡太郎の直系卑属たる相続人として遺留分を有し、右遺留分はそれぞれ一〇分の一である。

2 太郎は、昭和三三年頃よりその所有に属する財産を一郎一家に集中し、原告ら相続法上の権利を封じることを企て、その一貫として一郎と通謀し、遺留分権利者たる原告らに損害を加えることを知った上、昭和三六年二月二一日別紙財産目録13記載の不動産、同三七年三月五日同目録14記載の不動産を一郎に贈与した。

3 太郎は、昭和四六年九月二日、同人の全遺産を一郎の妻である乙山春子(以下「春子」という。)、及びその子である次郎、秋子、四郎の四名にそれぞれ四分の一の割合で遺言し、右遺言執行者として、被告萩原四郎(以下「被告萩原」という。)を指定する旨の公正証書による遺言をなし、被告萩原は、太郎の死亡にともない右遺言執行者に就任した。

4 遺留分算定の基礎となる財産及び原告らの遺留分は、次のとおりである。

(一) 太郎が春子、次郎、秋子、四郎に遺贈した財産

(1) 別紙第一物件目録一及び二記載の不動産の相続開始時の価額合計四五、五二八、八〇〇円

(2) 別紙第二物件目録記載の各不動産及び別紙財産目録1、3記載の不動産の相続開始時の価額合計一、〇二一、七五九、六三一円

(二) 太郎が一郎に贈与した財産

別紙財産目録13、14記載の不動産の相続開始時の価額合計二、〇五九、四九四、二七九円

(三) 以上の財産合計三、一二六、七八二、七一〇円が遺留分算定の基礎となる財産であるから、原告らの各遺留分額は、その一〇分の一に当たる三一二、六七八、二七一円である。

5 右遺留分算定の基礎となる財産額は、遺贈分一、〇六七、二八八、四三一円と贈与分二、〇五九、四九四、二七九円とが含まれているが、遺留分減殺の順序は、遺贈分から行使すべきであり、且つその方法は目的の価額の割合に応じてなすべきであるから、原告らは、春子、次郎、秋子、四郎に対し、太郎から遺贈された各不動産につき、それぞれ一、〇六七、二八八、四三一分の三一二、六七八、二七一宛減殺した。

6 しかるに、別紙第二物件目録記載の土地は、不動産登記簿上被告合名会社○○(以下「○○」という。)の所有名義となっており、且つ現に占有している。

7 よって、原告らは、別紙第一物件目録記載の不動産につき前述のとおり遺留分減殺請求権を行使し共有持分権を有するに至ったから亡太郎の遺言執行者である被告萩原に対し、同不動産につき昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ一、〇六七、二八八、四三一分の三一二、六七八、二七一宛とする所有権移転登記手続を求める。また、亡太郎からの受遺者である春子、次郎、秋子、四郎の四名は、別紙第二物件目録記載の土地につき所有名義を有する被告○○に対し遺贈を原因として所有権移転登記請求権を有するところ、原告らは、別紙第二物件目録記載の不動産につき前述のとおり遺留分減殺請求権を行使し、右受遺者らに対し共有持分移転登記請求権を有するので、債権者代位権に基づき受遺者四名に代位して被告○○に対し同不動産につき昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ一、〇六七、二八八、四三一分の三一二、六七八、二七一宛とする所有権移転登記手続を求めるとともに、被告○○は、別紙第二物件目録記載の不動産を原告の承諾を得ずに不当に占有使用し、原告らの有する右共有持分の割合につき賃料相当額の利得をしているので、被告○○に対し不当利得に基づき、本訴状送達の翌日である昭和五〇年六月七日以降原告らに対する右持分移転登記手続完了まで同不動産につき一平方メートル当り月額金二六円三六銭の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

(予備的請求)

1 主位的請求原因1ないし3と同旨。

2 太郎は、昭和四一年九月二〇日原告らの遺留分を害することを目的として被告○○に対し別紙第二物件目録記載の各不動産及び別紙財産目録1ないし8、同10記載の各不動産を贈与し、又被告○○も同様の目的をもって同不動産の贈与を受けた。

3 遺留分の基礎となる財産及び原告らの遺留分は、次のとおりである。

(一) 太郎が春子、次郎、秋子、四郎に遺贈した財産別紙第一物件目録一及び二記載の不動産の相続開始時の価額合計四五、五二八、八〇〇円

(二) 太郎が被告○○に贈与した財産

別紙第二物件目録記載の各不動産及び別紙財産目録1ないし8、同10記載の各不動産の相続開始時の価額合計一、六一三、五〇六、五〇七円

(三) 太郎が一郎に贈与した財産

別紙財産目録13及び14記載の不動産の相続開始時の価額合計二、〇五九、四九四、二七九円

(四) 以上の財産合計三、七一八、五二九、五八六円が遺留分算定の基礎となる財産であるから、原告らの各遺留分額は、その一〇分の一に当たる三七一、八五二、九五八円である。

4 そこで原告らは、原告ら三名の遺留分合計額一、一一五、五五八、八七四円の限度で減殺すべきところ、先ず春子、次郎、秋子、四郎に対し、太郎から遺贈された別紙第一物件目録記載の不動産価額計四五、五二八、八〇〇円につき減殺し、次に被告○○に対し、別紙第二物件目録記載の各不動産、及び別紙財産目録1及び3記載の不動産価額合計一、〇二一、七五九、六三一円につき減殺すると、右減殺合計額は一、〇六七、二八八、四三一円となるので、なお不足分四八、二七〇、四四三円につき、被告○○が売却した別紙財産目録2、同4ないし8、同10記載の各不動産につき減殺し、右売却不動産価額合計五九一、七四六、八七六円のうち四八、二七〇、四四三円につき価額賠償を求める。

5 主位的請求原因6と同旨。

6 よって、原告らが別紙第一物件目録記載の不動産につき前述のとおり遺留分減殺請求権を行使した結果、右不動産は原告ら三名の共有に帰し、原告らは各自三分の一の共有持分権を有するに至ったから亡太郎の遺言執行者である被告萩原に対し、同不動産につき昭和四九年六月一七日相続を原因として原告らの共有持分をそれぞれ三分の一宛とする所有権移転登記手続を求める。また、右遺留分減殺請求権の行使により、別紙第二物件目録記載の不動産も原告ら三名の共有に帰属することとなったので、原告らは右不動産につき、被告○○に対し昭和四九年六月一七日相続を原因として、原告らの共有持分をそれぞれ三分の一宛とする所有権移転登記手続を求めるとともに、価額賠償請求権に基づき各自一六、〇九〇、一三〇円及びこれに対する昭和五三年一一月一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。また被告○○は、別紙第二物件目録記載の不動産を不当に占有使用し、賃料相当額の利得をしているので、原告らは、被告○○に対し不当利得に基づき本訴状送達の翌日である昭和五〇年六月七日から右不動産の引渡完了まで一平方メートル当り月額金三〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(主位的請求について)

1 請求原因1及び3の事実は認める。

2 請求原因2の事実は否認する。右物件はいずれも一郎が太郎から買受けたものであって、同人の対税上の配慮から贈与名義で登記したものである。

3 請求原因4(一)(二)(三)、同5の事実は否認する。

4 請求原因6の事実のうち、別紙第二物件目録記載の土地が不動産登記簿上被告○○の所有名義になっていること、被告○○が、別紙第二物件目録三十四記載の土地及び同九記載の土地の一部を現に占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

5 請求原因7は争う。

遺留分減殺請求権の行使の方法は、一部の特定財産についてするのではなく、全部の財産について割合をもってしなければならないから、原告らの主張は失当である。

また原告らは、春子らに代位して被告○○に対し直接共有持分の移転登記を求めているが、原告らが保全すべき権利は遺言執行者に対する移転登記請求権であるから、代位される者は遺言執行者でなければならないし、その点は措くとしても、債権者代位に基づく移転登記は第三債務者から直接債権者に対してできるものでないから、原告らの主張は失当である。

(予備的請求について)

1 請求原因1の事実に対する認否は、主位的請求原因1ないし3の事実に対する認否と同旨。

2 請求原因2、同3(一)(二)(三)(四)、同4の事実は否認する。

3 請求原因5の事実に対する認否は、主位的請求原因6の事実に対する認否と同旨。

4 請求原因6は争う。

三  抗弁

(主位的、予備的請求に対して)

1  太郎は、昭和三三年八月二二日被告○○(但し、当時の商号は、乙山土地建物合名会社)の設立とともにその社員となり、別紙第一物件目録一記載の土地、及び別紙第二物件目録二、三、十九、二十、二十八、三十五、三十六記載の土地他二一筆(但し現物出資当時)の土地を現物出資した。しかし、右現物出資した土地のうち別紙第二物件目録十九、二十の土地他一一筆の土地は、出資当時農地であったために所有権移転登記が出来ず、昭和三三年一〇月七日頃被告○○から太郎に返還された。

2  太郎は、昭和三四年一二月二二日別紙第二物件目録一、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、記載の土地他四筆の土地を被告○○(但し当時の商号は乙山土地建物合名会社)に対し、代金二五〇万円で売渡した。

3  太郎は、昭和三六年三月三一日、別紙第二物件目録十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五、二十六、二十七、二十九、三十、三十一、三十二、三十三記載の土地他一六筆(但し右売買当時)の土地を被告○○(但し当時の商号は乙山土地建物合名会社)に対し、代金二七五万円で売渡した。その後被告○○(但し当時の商号は乙山土地建物合名会社)は、同社所有の二七四二番地の一の土地を川崎市所有の別紙第二物件目録三十四記載の土地他一筆の土地と交換した。

4  太郎は、生前句碑を建てたり、随筆を出版したり、又医師の診察治療を受けたりした費用を次郎に立替えて支払ってもらっていたため、次郎に対し別紙第一物件目録二記載の建物で、代物弁済し、昭和四九年五月二二日同人名義をもって保存登記を了した。

5  以上のとおり、別紙第一及び第二物件目録記載の不動産は、遺留分減殺の対象たる財産に含まれない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、太郎が昭和三三年八月二二日被告○○(但し当時の商号は乙山土地建物合名会社)の設立とともにその社員となり別紙第二物件目録二、三記載の土地等につき現物出資の形式がとられたことは認めるがその余の事実は否認する。右現物出資は、後記(再抗弁)のごとく、目的不動産を一郎一家に集中し、原告らの相続法上の権利主張を封ずる手続として、なされたものである。

2  抗弁2の事実は否認する。

3  抗弁3の事実のうち、被告○○(但し当時の商号は乙山土地建物合名会社)が川崎市との交換により別紙第二物件目録三十四記載の土地を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  抗弁4の事実は否認する。

5  抗弁5は争う。

五  再抗弁

1(一)  被告○○は、そもそも太郎が一郎にその所有の全財産を取得させ、原告らに相続法上の権利を主張させないために一郎、春子、同女の父である山川海夫(以下「海夫」という。)らと共謀のうえ、昭和三三年八月二二日設立した乙山土地建物合名会社(以下「乙山土地会社」という。)を昭和四一年九月二〇日その目的、名称を変更した会社である。

(二) 乙山土地会社は、その存立時期を二〇年とし、事業の目的として太郎の不動産の保存及び貸付け等右物件管理のために設立されたものとされ、右会社の商業登記簿によると、設立にあたって太郎が同人所有の不動産を五〇万円と評価して右会社に現物出資し、一郎が金二〇〇万円、次郎が金五〇万円をそれぞれ出資して社員となった。また商業登記簿上太郎は、昭和三六年一二月三〇日右会社に対する持分を海夫に譲渡し、一郎は昭和三七年一一月一〇日その持分を春子に譲渡して同女が同日右会社の代表社員に就任し、更に昭和四一年九月二〇日海夫死亡に伴い同人が退社し、同日同人の妹の夫である訴外月海山夫が入社し、同日商号を○○と変更するとともにその目的を土地建物の貸付として、前記の管理会社たる性質を払拭するに至った。

(三) しかし、右はすべて一郎一家に太郎の財産を集中独占するための面策としてなされたものであって、そのことは、太郎が乙山土地会社を設立するにあたり不動産を現物出資した以外に、太郎が右会社を退社した後も昭和三六年五月四日、同三七年三月五日、同年七月三日、同年一一月一九日にそれぞれ現物出資していること、右会社設立にあたっての太郎の現物出資を非常に低くわずか五〇万円と評価したこと、一郎及び当時八歳であった次郎には、右会社の設立に際し、前記金員を支出するだけの資力がなかったこと、太郎及び海夫との間に、もし一郎が先に死んだ場合、乙山土地会社の同人名義に仮装してある社員の権利を太郎に、海夫が先に死亡した場合同人名義に仮装してある社員の権利を太郎に、同人が先に死んだ場合、海夫に仮装してある社員の権利を一郎に譲渡する旨の裏契約がなされたことなどからすると、右会社に現物出資された不動産は、一郎一家に財産を集中し、原告らの相続法上の権利主張を封じるために会社組織を利用してなされたものであることは明白である。

(四) 以上の事実からすると、被告○○は太郎そのものであって、被告○○とそれに先行する乙山土地会社の法人格は否認されるべきである。

2  仮りに被告○○の法人格が存在するものとしても、抗弁1ないし3の現物出資及び売買は、原告らの相続法上の権利を害するために太郎が被告○○(但し当時の商号は、乙山土地建物合名会社)と通謀してなされた虚偽の意思表示であり無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)の事実のうち、乙山土地会社が昭和三三年八月二二日設立され、同四一年九月二〇日○○とその名称を変更したことは認め、その余の事実は否認する。

2  再抗弁1(二)の事実は認める。

3  再抗弁1(三)の事実は否認する。

乙山土地会社を設立した際一郎は海夫から二〇〇万円を借り受け、又次郎は訴外一山春夫(以下「一山」という。)から三〇万円、訴外一月冬子(以下「一月」という。)から二〇万円をそれぞれ借りて右会社に出資し、その社員になったものである。また、乙山土地会社の設立に際し太郎の現物出資を五〇万円と評価したのは、当時の固定資産税及び相続税の課税基準となる価額を基礎として評価算出したものである。

4  再抗弁1(四)の事実は否認する。

5  再抗弁2の事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  主位的請求原因1及び3の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告らは、別紙第一、二物件目録記載の各不動産につき遺留分の減殺をする旨主張するのに対し、被告らは、別紙第一物件目録一記載の土地及び同第二物件目録記載の各土地は、被告○○が太郎から現物出資及び売買により取得したものでああり、又別紙第一物件目録二記載の建物は、次郎が太郎から代物弁済により取得したものであって、いずれも遺留分減殺の対象たる財産足りえない旨抗弁するので、この点について検討する。

乙山土地会社は昭和三三年八月二二日設立されたこと、右会社は、存立時期を二〇年とし、太郎所有の不動産の保存及び貸付けを目的としていたこと、太郎は、右会社の設立にあたり別紙第二物件目録二、三記載の土地その他を現物出資したこと、太郎の右出資は五〇万円と評価されたこと、乙山土地会社は、昭和四一年九月二〇日、その名称を合名会社○○と変更したこと、同会社は、川崎市との交換により別紙第二物件目録三十四記載の土地を取得したことは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いがない事実と《証拠省略》を総合すると、太郎は××教の教祖であったこと、太郎は、別紙第一、二物件目録記載の不動産をはじめ他の不動産を所有し、自らその保存管理をしていたが、××教の教主が地代を徴収したり、その値上げ交渉をするのは不都合であったため、乙山家の土地、建物の保存、貸付及び管理を目的として、乙山土地会社が設立されたこと、右会社設立にあたり、太郎が別紙第一物件目録一記載の土地及び別紙第二物件目録二、三、十九、二十、二十八、三十五、三十六記載の土地他二一筆(現在は分筆され三六筆)の土地を現物出資し、一郎が二〇〇万円、次郎が五〇万円出資しそれぞれ社員となったこと、一郎は、右出資金が未払であったため昭和三四年一一月七日海夫から二〇〇万円を借り受け、右会社に対し出資金の支払いをなしたこと、海夫からの借入金二〇〇万円は、春子が、一郎の死後である昭和三八年一一月頃、川崎市多摩区△△字××○○○○番×の土地の造成分譲金をもって、返済したこと、次郎は、乙山土地会社の設立当時九歳であったが、将来乙山家の後継者となるため右会社の社員になったものであるが、次郎の前記出資金五〇万円は、父である一郎が一山春夫から三〇万円、同じく一月某から二〇万円借り受けて、右会社の設立後払い込んだものであること、太郎が現物出資した不動産のうち、農地であったために乙山土地会社に対し所有権移転登記ができなかった別紙第二物件目録十九、二十記載の土地の他一一筆の土地は、昭和三三年一〇月七日頃、同会社から太郎に返還されたこと、太郎は、昭和三四年一二月二二日別紙第二物件目録一、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二記載の土地他四筆の土地を乙山土地会社に対し代金二五〇万円で売渡したこと、右会社は、右同日、一郎からの出資金を資金として内金二〇〇万円を太郎に支払い、昭和三五年二月三日次郎からの出資金を資金として売買残代金五〇万円を太郎に支払ったこと、太郎は、右二五〇万円の所得につき、昭和三七年八月一四日、修正申告をしたうえ不動産譲渡所得税を支払ったこと、太郎は、昭和三六年三月三一日別紙第二物件目録十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五、二十六、二十七、二十九、三十、三十一、三十二、三十三記載の土地他一一筆の土地を乙山土地会社に対し代金二七五万円で売渡したこと、乙山土地会社の代表社員であった一郎は、昭和三六年春頃、妻春子の実姉の春山花子から同会社のために二〇〇万円を借り受けたこと、乙山土地会社は、右金員をもって太郎に対し右売買代金のうち二〇〇万円を支払い、売買残代金七五万円は、同会社が太郎のために小作人に対し離作料を支払ったが、右太郎に対する立替払債権をもって相殺したこと、乙山土地会社は、昭和三七年七月三一日、右売買により取得した二七四二番一の土地を川崎市所有の別紙第二物件目録三十四記載の土地と交換したこと、太郎は、昭和三六年一二月三〇日乙山土地会社の社員権を海夫に一〇〇万円で譲渡したこと、一郎は、死亡する直前の昭和三七年一一月一〇日乙山土地会社の社員権を妻の春子に譲渡し、春子が同会社の代表社員に就任したこと、乙山土地会社は、昭和四一年九月二〇日、商号を合名会社○○と改めるとともに、その目的を土地建物の貸付及びこれに付帯する一切の業務と変更したこと、次郎は、太郎が生前句碑を建てたり、随筆の出版をしたり、又医師にかかった費用等を立替えて支払っていたが、太郎が、右債務を別紙第一物件目録二記載の建物で代物弁済したので、太郎が死亡する直前の昭和四九年五月二二日、次郎名義で保存登記をしたことが認められ、以上の事実によると、被告○○は、太郎から現物出資により、別紙第一物件目録一記載の土地及び別紙第二物件目録二、三、二十八、三十五、三十六記載の各土地所有権を、また、売買により別紙第二物件目録一、同四ないし二十七、同二十九ないし三十三記載の各土地所有権を取得し、川崎市から交換により別紙第二物件目録三十四記載の土地所有権を取得し、他方、次郎は、太郎から代物弁済により別紙第一物件目録二記載の建物所有権を取得したものであることが認められる。

もっとも、《証拠省略》によれば、別紙第一物件目録一記載の土地は登記簿上現在なお太郎名義のままであること、《証拠省略》によれば別紙第二物件目録二十八の土地について登記簿上太郎から被告○○への所有権移転原因が売買とされていること、が認められるが、右事実も前記各証拠にてらして前認定の事実をくつがえすものではなく、さらに《証拠省略》によれば、別紙第二物件目録一、同四ないし二十七、同二十九ないし三十三の土地および二七四二番地の一の土地の太郎から被告○○への所有権移転原因が登記簿上出資とされていることが認められるが、《証拠省略》によれば右は登記手続を依頼する過程における錯誤により、右のとおり登記されたものであることが認められ、従って右事実も前認定の事実をくつがえすものではな(い。)《証拠判断省略》

三  これに対し、原告らは、被告○○(商号変更前の乙山土地会社)の法人格は否認されるべきである旨主張するのでこの点につき検討する。

原告らは、太郎は乙山土地会社を退社した後にも同会社に現物出資している旨主張し、前記のとおり、太郎から被告○○に、昭和三四年一二月二二日売却された各物件および昭和三六年三月三一日売却された各物件については登記簿上所有権移転原因が出資とされているが、右がいずれも売買であることも前認定のとおりであるから、原告ら主張の事実は認められない。また、原告らは太郎の乙山土地会社に対する現物出資を五〇万円と評価したことは不当に安い旨主張するが、右主張を認めるに足る証拠はなく、さらに、原告らは、太郎と海夫との間に裏契約があった旨主張し、《証拠省略》には右主張に沿うところがあるが、右は、たやすく採用できず、以上、被告○○の法人格を否認すべしとする原告らの右主張を認めるに足る証拠はない。

また、原告らは、太郎と乙山土地会社との前記現物出資及び売買は、通謀虚偽表示により無効である旨主張するが、本件全証拠によるも右事実を認めることはできない。よって原告らの右通謀虚偽表示の主張は理由がない。

四  したがって、前述のとおり、被告○○は、太郎から現物出資及び売買により、別紙第一物件目録一記載の土地、及び別紙第二物件目録記載の各土地(但し同目録三十四記載の土地を除く。)を取得し、川崎市から交換により、別紙第二物件目録三十四記載の土地を取得したものであり、また次郎は、太郎から代物弁済により別紙第一物件目録二記載の建物を取得したものであるから、別紙第一、二物件目録記載の各不動産につき遺留分減殺を求める原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、その主位的及び予備的請求とともに理由がない。

五  よって、原告らの請求は、いずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧山市治 裁判官 竹江禎子 滝澤雄次)

〈以下省略〉

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